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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(あ)1803号 判決 1982年9月09日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

本件事件受理申立の理由は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)一三条が「宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。」と規定し、同法七九条三号が右規定に違反した者に対し一定の刑罰を科するものとしているのは、右のいわゆる名義貸しの相手方が宅地建物取引業(以下「宅建業」という。)を営む免許を受けている者であるとこれを受けていない者であるとを問わず、他人に対する名義貸しを一律に禁止、処罰する趣旨であると解すべきであるのに、原判決が、同法の右各規定は右免許を受けていない者に対する名義貸しのみを禁止、処罰する趣旨であると判断したのは法律の解釈を誤つているというものである。

おもうに、宅建業法は、宅地建物取引業者は自己の名義をもつて他人に宅建業を営ませてはならないとし(同法一三条一項)、右規定に違反して他人に宅建業を営ませた者は一定の刑に処する旨を規定していて(同法七九条三号)、その禁止・処罰の対象となる名義貸しの相手方につき文理上もなんらの限定を置いていないばかりでなく、名義貸しが行われるときには、たとえその相手方が宅建業を営む免許を受けている者であつても、当該取引における名義上の当事者の社会的、経済的信用に依拠して取引を行う宅地、建物の購入者等が不測の損害をこうむるおそれがあること、同法は宅建業を営む者について免許制度を採用しているところ、右名義貸しが行われた場合は、たとえその相手方が右免許を受けている者であつても、当該取引における真の当事者がなにびとであるかが不分明となり、これに対する行政上の監督権を適切に行使することが困難となるおそれがあること等を考慮すると、同法の右各規定は、他人に対する名義貸しにつき、その相手方が宅建業を営む免許を受けている者である場合を除外する趣旨であるとは解されず、その相手方が右免許を受けていると否とにかかわりなく、一律にこれを禁止、処罰する趣旨であると解するのが相当である。

してみると、右の見解と異なり、宅建業法一三条、七九条三号が宅建業を営む免許を受けていない者に対する名義貸しのみを禁止、処罰する趣旨であるとして、第一審判決を破棄し、被告人らに無罪を言い渡した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よつて、本件事件受理申立の論旨は理由があるから、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため、同法四一三条本文に従い、本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 本山亨)

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